国際バカロレア委員会

「グローバル人材」という新しい言葉がメディアに登場してから、国際バカロレア(International Baccalaureate, 以下IB)についての問い合わせがとみに多くなっています。子供をもつ父兄はもちろんのこと、教育業界、産業界に至るまで「IBのことを良く聞きますが、そんなにレベルが高いのですか?」という非常に初歩的な質問から、実際の科目選択、勉強方法まで多岐にわたっています。

シンガポールのインター校の多くがIBカリキュラムを競って採用、履修者を増やし学校のプレスティージを上げようとしているという実態があります。その中でIBを履修する日本人生徒の数が確実に増えています。しかし、多くの情報は非常に断片的な情報で、中には間違った情報も独り歩きしているようです。そこでIBに関して、情報を整理して、皆さんに正しい知識を知っていただこうと思います。

成立の経緯

国際バカロレア(IB)は、国際バカロレア機構(International Baccalaureate Organization, IBO)が提供する国際教育プログラムです。国際バカロレア機構は1968年スイスで非営利教育団体として設立されました。設立の目的は世界各地で履修できる大学進学用の国際統一カリキュラムを提供することにありました。国によって教育制度や教育カリキュラムが異なるため自国以外の外国の大学への進学が容易にできない事情が多くあったため、世界中どこの国からも優れた大学に進学できるレベルの高い教育制度が求められたのです。また第2次大戦の反省から、国家主義の反映ではない、つまりどこの国の教育政策にも偏らないグローバルな平和主義の視点に立脚した教育の必要性も求められていました。こうした背景の中、IBのカリキュラムが新たに作られました。

設立当初は、中等教育(Secondary Education)終了後に履修する大学進学課程(Tertiary Preparation Course)としての、2年間のディプロマコース(Diploma Programme 以下DP)が研究開発されました。この画期的な国際プログラムをいち早く採用した学校の一つが、イギリスのウェールズにあるユナイテッドワールドカレッジ・アトランティックカレッジです。この学校は、それまで採用していたイギリスの伝統ある国家カリキュラム(GCE A-level)を捨てて、国際カリキュラムであるIBディプロマを採用したパイオニア的存在のIBスクールの一つです。シンガポールにある有名進学校ユナイテッドワールドカレッジ・サウスイーストエイジア(通称UWC)はこの姉妹校であることがよく知られています。

その後、国際バカロレア(IB)のグローバルな視点をもつカリキュラムは更に整備され充実した内容になり、DPに引き続き94年から中等教育課程(MYP)のカリキュラムを、97年から初等教育課程(PYP)のカリキュラムを提供開始。3歳から19歳まで、就学前教育・初等教育・中等教育・大学進学準備教育の一貫した教育カリキュラムの提供・サポートを開始しました。

グローバリゼーション……世界の多極化と英語の優位性の拡大

90年代初めに冷戦構造が終焉し、軍事技術だったインターネットをアメリカが民生転換して世界中に拡大、情報の移動が瞬間的に起こり、産業構造が劇的に変化しました。いわゆる情報革命です。それに伴って英語の汎用性が急激に広がりました。少なくともネット上の情報の約80%が英語と言われています。学術、ビジネスなどあらゆる分野で英語が共通語の地位を確保しました。学術論文は英語で書かないとネット上でも世界の研究者の目に触れませんし、今や研究者の論文がどれだけ引用されたかがその大学の学術レベルをはかる重要なものさしになって来ました。ビジネスの世界は言わずもがなです。もはや英語はアングロサクソンの言語ではなく、世界の多様な価値観を持つ人々にとっての共通語です。

近年の成長地域は欧米・日本ではなく、アジア・中東・アフリカです。この地域に関連したビジネスが爆発的に大きくなっています。商売の相手がムスリム・ヒンドゥーというのも当たり前ですね。世界はまさに多極化にむけてまい進しています。こういう状況の中で、IBのような多様性を大切にし、グローバルな観点で構成された国際カリキュラムが大きな評価を受けるのは当然の結果だと思います。

国際標準の地位を確立したIB

IBの国際的評価が高い理由はいくつかあります。

  1. 深く幅広い学習を課されるので、ディプロマ取得者は学力・教養ともに高いと評価されます。

    大学での専攻にかかわらず、6つの科目群(第一言語。第二言語。人文科学。自然科学。数学。芸術)から各1科目選択することが要求されます。Higher Level(大学1、2年相当)、Standard Level ( 高校3年一部大学1年相当)の2レベルあって、学生は6科目のうちから最低3科目をHigher Level で選択しなければなりません。

  2. 初等教育からのカリキュラム・手法が完全に大学での学習の準備になるので、入学後の好成績が期待されます。

    様々な分野関連性を大事にするHolistic Education(総合的学習)と、解答が一つとは限らない問題解決型学習手法にそって、Critical Thinking(統合的思考)を鍛え、論文を書かせ、試験も論述式が多く取り入れられています。大学・大学院でのリサーチに直結しています。事実、DPを苦労して修了、無事大学に入学した学生が、「大学の勉強の方が楽!」と感想をもらしています。彼らの多くは大学で高いスコアをあげています。

  3. バイリンガルガルディプロマも取得できます。

    母語(或いは母語並み)の言語Aを2科目修了すると、バイリンガルディプロマが授与されます。これは自国のアイデンティティーを保持しながら、共通語で履修できたという証。大学卒業後、就職時に「バイリンガルディプロマを持っているから大丈夫だね。」と人事担当者から言われたという話を何度も耳にしました。

  4. 国際標準としての圧倒的認知

    カリキュラム・内容と評価の基準がすべて公表されているので、大学は安心して合否を決めることができます。合計スコアと履修科目だけでその学生の学力のプロフィールが分かってしまいます。

    DPは極めてレベルが高いのでここで好成績をとれば、世界中の多くのトップレベルの大学から入学許可の切符を手にしたと同じです。ここ10年でIBは完全に大学入学時の国際標準になりました。アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、カナダ、アジアなどの各地域の主要大学はDPの好成績者の獲得競争をしています。事実彼らの進学実績は驚異的です。世界ランキング上位の大学に多数合格しているばかりでなく、奨学金が授与されたり、1年次の授業の一部が単位認定・免除されたりします。

日本でも上がるIBの認知度……G30系のコースを中心に

長年独自路線を歩んできた(?)日本の大学も大きく変わる兆しが見えています。09年に文部科学省の支援で国際化拠点整備事業(グローバル30、以下G30)が始まったため、日本にも英語で授業を行う大学が増えてきました。

従来の英語コースは文系学部が主流でしたが、最近では理系の大学にこのコースが設置される流れが出てきました。東京大学(2012)、上智大学(2012)、早稲田大学(2010年)、名古屋大学(2011年)。9月入学で一般入学試験は行わず書類選考中心。試験があっても口頭試問で、いずれもIBは積極的に評価。ようやく国際的な選考方法に近づいてきました。従来SATのスコアの提出を義務づけていた上智大学国際教養学部も本年度からDP修了者はSAT受験は不要になりました。

英語で授業が行われるG30系でない、一般の学部学科の帰国枠受験もIBを積極的に評価するようになってきました。DP履修者の学習スキルと目的意識の高さがようやく日本の大学にも知られてきたためと思われます。国立岡山大学がIB履修者を対象にしたAO入試を開始しました。

IBは国内の大学受験には不利だからやめた方が良いとアドバイスされたことのある方もいるかもしれませんが、それは完全に過去の話です。ここ数年で流れは大きく変わり、DP修了者の評価が急速に高まっています。目指す大学学部のアドミッションの動向を常に注視する必要があると思います。実際にこの流れに乗り遅れる大学は世界から孤立してしまう危機感があります。